心を楽にするために振り返る子育て

10 まとめ

10-1 私たちにとっての現実

私たちはみんなが同じ現実の中で生きていると思っています。

しかし、実際はそうではありません。

私たちは、様々なことを、そのときに感覚器官から得られる情報だけでなく、記憶からの情報で補って認識します。

感覚器官によって確認したことを知覚現実、自分の記憶から補ったことを記憶投影現実と呼ぶと、「私たちにとっての現実(合成現実)」は、知覚現実と記憶投影現実の2つが重なり合ったものということができます。(現実の二重構造)

人は、自分の体験から得た情報によって、自分にとっての記憶投影現実を構築しながら生きています。

全く同じ体験を重ねる人がいないことを考えると、体験の蓄積によって構築される記憶投影現実も異なることになり、それを要素としている「私たちにとっての現実(合成現実)」も同じではないといえます。

ですから、自分が把握したことだけでは、誰かの本当の気持ちを想像によって理解することなどできません。

想像によって、他人の気持ちを正しく理解するためには、その人にとっての現実の全て、すなわち、人生の全てを知る必要がありますが、そのようなことは不可能です。

誰かの気持ちを正しく理解するには、本人に教えてもらうしか方法はありません。

お腹の痛さは、本人にしか分からないのと同じです。にもかかわらず、私たちの多くは、不思議なことに、心に関することだけは、他人のものでも自分の想像だけで理解できるような気がしているようなのです。

社会の一般論や心理の専門知識などによって、機械的に人の気持ちを理解できるはずなどないのです。

10-2 条件反射

合成現実(人にとっての現実)を、知覚現実と記憶投影現実とに分離したとき、記憶投影現実の中には、色々な体験に基づく「感覚の素」が組み込まれています。

今の自分が置かれている状況に、過去につらい体験をしたときと似たような雰囲気があるとき、感覚の素が反応して、何かが起こる前に過去に味わった感覚を生じさせます。

そして、その感覚に反応することで、過去と同じようなつらい体験をすることから守られるのです。

私たちは、条件反射を「ベルを鳴らしてからエサを与えるようにすると、犬はベルを鳴らしただけでヨダレを流す」、「エサを与える装置に、ある条件では電流が流れないように細工すると、猿は電気ショックを受けずにエサを手に入れる行動を学習する」などとしか考えません。

しかし、ヨダレを流している犬にワクワクする気持ちが生じていること、電気ショックを恐れる猿に張り詰めた苦しい気持ちが生じていることも、想像することを忘れてはいけないのです。

そして、その人の条件反射が起こる理由は、その状況を客観的に観察しても把握することはできません。

条件反射を起こしている人の主観で状況を理解しようとしなければ原因は分からないのです。

「10-1 私たちにとっての現実」で説明したように、その人の人生の全てを知って、その人にとっての現実を把握しなければ、その人の主観で状況を眺めることはできません。

にもかかわらず、本人でさえも、自分の主観を無視して、世にあふれた心の知識や常識などに当てはめて理解しようとするから、本当の理解には至らず、ますます心理的な問題をこじれさせてしまうのです。

この事実を一番知っておかなければならないのが、自分の気持ちを理解しようとするときの自分自身だということは忘れないで下さい。

10-3 催眠療法

現実の二重構造の中の記憶投影現実を活用するのが催眠療法だといえます。

記憶投影現実の中では、物に対する感覚を物質として認識する心理的な働きがあります。

人に生じる感覚は、物質からの刺激による感覚も、自分の中に湧き出る感覚も、「感覚」ということでは何の違いもありません。

ですから、その心理的な働きによって、記憶投影現実の中では、自分に生じた様々な感覚も、あたかも物質であるかのように扱えます。

この心理的な働きを利用すれば、記憶投影現実の中では、例えば、自分の行動を妨げる感覚を、あたかも物質であるかのように取り出して、物質として処理できます。

また、その感覚を呼び水として、その感覚の背景にある出来事や、当時適切に対処できなかった感情を記憶投影現実の中に再現し、現時点において、適切に対処し直すこともできます。

感覚を物質として対処する方法は、心について深く理解した心理カウンセラーにサポートしてもらいながら行うことをお勧めします。

「感覚を物質のように扱って対処できる」と信じて、真剣に取り組めば、自分で行っても、「怖くない怖くない」とただ繰り返し唱えて自己暗示しようとするよりも効果は期待できます。

但し、それによって条件反射による守りが解除されることになるので、心を危険にさらしてしまうことになります。

ですから、物質として対処する前に、ダメージを受けた心を回復させる正しい対処方法を身に付けておく必要があります。

余談

催眠療法でも、自分を不自由にする感覚を物質のように取り出すことが難しいときがあります。

そのようなときは、深呼吸をしながら、取り出したい感覚を体の外に吐き出してもらうようにすると、ほとんどの場合、取り出せます。

ここからも、深呼吸(呼吸)は、心を楽にする効果があるということが分かります。

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