コア・トランスフォーメーション
01.コア・トランスフォーメーションのことを説明する前に … 意識の構造と催眠療法
昨年、コア・トランスフォーメーションというちょっとユニークな心理療法に出合いました。
コア・トランスフォーメーションのことを詳しく知ろうと思って本を探したのですが、私が見つけられたのは、この一冊だけでした。
読んでいて、不規則に同じような内容が繰り返されるように感じて混乱するところもあったのですが、本全体としては、とても分かり易かったと思います。
ただ、この本をいきなり読むと、胡散臭いと感じてしまう人は多いだろうと想像しています。
でも、私は、結構すんなり受け入れられるものでした。
それは、たぶん、これまで催眠療法に長く関わってきたことが影響しているのだと思います。
そこで、今回は、コア・トランスフォーメーションの説明に先だって、まず、意識や催眠療法に関連したことを説明したいと思います。
次の図は、私がこれまでカウンセリングや催眠療法を通してイメージしている心に関わる構造(意識と無意識など)を図にしたものです。
詳しく掘り下げて書こうとすると少し違ってくる部分があるかもしれませんが、ザックリ書くとこんな感じです。
ポイント
この図のポイントを説明します。
まず、少し見づらいのですが、下部の赤い部分が本当の自分で、上部の赤い部分が自己意識です。
どうして、自分がこのように2つに分かれるのかは不思議なのですが、どうもこのようになっているように思えるのです。
次に、行動は次の4つに分類されるということもポイントとなります。
- 本能的な行動
- 自然な行動
- 学習した行動
- コントロールされた行動
これらの行動は、次のような流れをたどると考えています。
- 赤ちゃんの頃は、本能的な行動が中心となる
- 幼児期に入り行動力が身に付くにつれて、自然な行動が増えてくる
- 子供の自然な行動に対して、親のしつけや感情的な反応によって、その環境や状況で好ましい行動を条件反射として身につけ、学習した行動が加わる
- 少年期や青年期にかけて、思考の発達や知識や社会常識の蓄積にともなって、コントロールされた行動が加わる
ただ、全ての行動がこのような流れで変化するというわけではなく、成人後も、これらの行動は混在しています。
ただ、その混在の具合(比率)は、人それぞれの生育環境によって違いが生じると考えています。
図中の『黒いハートマーク』は、トラウマと呼ばれているものです。
これには、悪いものだけでなく、良いものも含まれます。
例えば、犬にかまれた経験が犬嫌いにつながるといったことだけでなく、テストで良い点をとると親が褒めてくれるから勉強が好きといったものも、図中の黒いハートマークが表わしていることです。
(通常は、好ましい予感を伴うことは問題視しませんからトラウマとは表現せず、嫌な予感を伴うものに限ってトラウマと表現されるところがあります。)
人は、これらの行動のうち学習された行動をしている時、自然な行動とのギャップに心の苦しさを感じます。
また、この学習された行動や自然な行動を、何らかの理由でコントロールされた行動に移行させなければならないと感じてそのように努力している時、やはり、心の苦しさを感じます。
催眠療法
暗示
学習された行動には、多くの場合、その行動を妥当なものだと自分に信じ込ませる(自己に暗示をかける)ために、その人にとっては論理立っている価値観(こだわり)のようなものを併せ持っていることが多くあります。
一般の人が催眠療法と聞くと、まず、思い浮かべるのは「この価値観という暗示を、別の暗示で覆い隠すことで、行動を変容させることができる」といったイメージではないでしょうか。
例えば、「犬が怖い」と思っている人に「犬は安全だ」と暗示するような感じです。
確かにそのような方法もありますし、実践されることも多いかもしれません。
ただ、これでは、黒いハートを白く塗り替えるというよりは、もともとの黒いハートマークに白いカバーで覆うのと近いところがあり、時間経過に伴って、白いカバーが薄れて中の黒が浮き出てくることもあります。
詳細の説明は省きますが、私は、この方法は、あまりお薦めしていません。
感情処理
次に、イメージするのは、たまにテレビとかで見かけることがあるのですが、トラウマの原因となっている感情を吐き出すということです。
「犬が恐い」という人を例えば退行催眠によって当時の気持ちを蘇らせて、その時発散できなかった気持ちを「怖かったよーーっ!!」などと泣きじゃくりながら、気持ちをスッキリするまで吐き出すのです。
他にも方法がありますが、そんな中で、この黒いハートマークを一人の人として対峙する方法があります。
催眠状態の中で、現在の自分とその黒いハートマークの人と、会話できたりします。
最終的には、当時吐き出せなかった感情を吐き出してスッキリするということで、一連の催眠療法が終わる流れになることが多いです。
そして、この感情の吐き出しによって、黒いハートマークは消滅し、学習された行動からも解放され、自分で行動をコントロールできるようになります。
それに伴って、心に居座っていた学習した行動を引き起こすための苦しさからも解放されます。
※黒いハートマークを人として扱うイメージは、ピュアハート・カウンセリングのサイトのボクと君の仲直り ~ いつもボクを守ってくれている君 ~ が参考になると思います。
ただ、社会の常識や思い込みなどには、相変わらず行動は左右されてしまうので、トラウマから解放された後の行動の全てが、自然な行動であるとは限りません。
本当の自分と自己意識の間にある障壁が外れて、自然な行動に一歩近づくのは確かです。
この手法で行われていることは、本当の自分と自己意識とを直接的につなごうとしていると考えることもできます。
まとめ
- 自分のある部分(感情や感覚や行動・・・)を一人の人的な扱いをする
- 『本当の自分』と『自己意識』をつなぐ
この2つを何となく知っておくと、コア・トランスフォーメーションを理解しようとする助けになると思います。
【補足】
ちなみに、本当の問題は、「なぜ、苦しい経験をトラウマにしてしまったのか?」ということです。
それを予防したり解決したりできるのが、そうかそうかムーブメントです。
このホームページ(https://www.pureheart-counseling.com/)や、拙著『あなたにもある心を回復する機能』をお読み頂けると、心の苦しさの本当の原因と解決策をご理解頂けると思います。
02.コア・トランスフォーメーションについて
まず、コア・トランスフォーメーションと似ている催眠療法の流れを挙げます。
- 心の苦しさ(例えば、胸の苦しさ、言葉の言い難さ、気持ちの重さ・・・)に気付く
- 気付いたそれらを、一人の人のように位置付ける ※以降、「擬人化した存在」と記述
- イメージの中で、擬人化した存在とのコミュニケーションを試みる
- 現在の自分 と 擬人化した存在 と会話によって、過去に封じ込めてしまった感情を吐き出させる
- 溜め込んでいた感情を吐き出すと、自己意識 と 本当の自分 との間に作られていた障壁が取り除かれる
- 障壁が取り除かれた結果、自己意識 と 本当の自分 との間の結びつきが自然に強まり、自分らしい行動ができるようになる
催眠療法を実際にやってみた人しか分からないと思いますが、催眠状態では擬人化した存在と本当に会話ができたりします。 前置きが長くなりましたが、コア・トランスフォーメーションの説明に入ります。
コア・トランスフォーメーション
私は、前回の投稿で説明したように、「本当の自分というものがありそうだ」と何となく感じていたのですが、それを前面に出したアプローチはしてきませんでした。
その理由は、本当の自分 と 自己意識 の間にある障壁さえ取り除かれれば、本当の自分を特別に意識しなくても、本当の自分に沿った行動が自然に起こせるようになると考えているからです。
一方、コア・トランスフォーメーションは、この本当の自分を意識するよう組み立てられています。
ここでコア・トランスフォーメーションの特徴的な考え方を挙げてみます。
- パートは、本当の自分の望みを感じ取り、自己意識に代わってそれを実現しようとしてくれている
- 心の苦しさ、身体感覚、感情、体の動き(動作・行動)など人のあらゆる活動・反応・感覚は、パートとして扱うことができる
- つまり、 心の苦しさ、身体感覚、感情、体の動き(動作・行動)など人のあらゆる活動・反応・感覚は、本当の自分の望みを実現するために生じている
- そんなパートの中には、何らかの事情で、望みそのものではなく「望みを実現するための手段(プロセス)」にこだわってしまって、本当の自分の望んでいることを忘れてしまっているものがある
- パートが本当の望みに気付けば、自己意識はパートのこだわりから解放され、本来の自分の望みに沿った行動を行うことが出来るようになる
- プロセスを省略しても、パートは無意識の世界の中で、望みが叶ったときの状態を体験できる
そんな感じです。
次に、 実際にコア・トランスフォーメーションを行うときのポイントを挙げます。
- 質問に対する答えを探す全てのプロセスは、自己意識とは関係なく、無意識の世界の中で自動的に行われると考える
- 初めに確認する質問 : 「あなたは、それによって私に何を与えようとしてくれているのですか?」
- 繰り返す基本の質問 : 「それによって得られた状態を十分に感じる体験をした後で、それよりも、もっと手に入れたい大切なものは何ですか?」
- 質問の後、その状態のままに自己を放置して浮かび上がってくる答えを待つ(答えを思考によって導き出そうしない)
- 浮かび上がってくる答えは言葉だけとは限らない(言葉、イメージ、感情、感覚、動作 …)
- 「望みが叶った状態の体験」と「望みの再確認」を繰り返す
- その作業を繰り返していると、やがて、他の望みが想起されない状態に至る(真の望みにたどり着く)
- その結果、本当の自分の望みを自己意識が認識するに至る
ほとんどの場合、たどり着く望みは、おおよそ次の5つのいずれかに当てはまると紹介されています。(この到達するものは、コア・ステートと呼ばれます。)
- ただ在ること
- 内なる安らぎ
- 愛
- あるがままで大丈夫だという感覚
- 宇宙との一体感
そして、コア・ステートにたどり着いたとき、
- 既にそれを無意識の中で十分に感じているので、現実の世界の中で、必要以上に求める必要はなくなる
- とても安心な気持ちの中で、自分らしく自然に生きていけるようになる
らしいのです。 これらのことは、催眠療法に長く関わっている人は、何となく納得できる部分は多いと思います。
もし興味を持たれて、正確なことをもっと詳しくお知りになられたい場合は、今回ご紹介している本がお勧めです。
コア・トランスフォーメーションでは一連の過程を無意識に委ねましたが、『プロセスを省略し、まず結果を体験する』という考え方は、意識の中でも活用できます。
それは、次回の投稿で説明します。
日常生活の中で、それに近い状態になる方法
コア・トランスフォーメーションでなくても、普通の生活の中で普通に安心を感じる方法があります。
それは、
- 苦しい時は、安心な人に見守られながら、スッキリするまで泣く
- 嬉しいときは、安心な誰かに共に喜んでもらう
ということです。 詳しいことは、ピュアハート・カウンセリング関連サイトや出版物を参考して下さい。
余談:神秘体験・光体験・悟り…
ここからは余談です。 コア・ステートにたどり着いたとき(本当の自分の望みを自己意識が認識した時)に、非常に興味深い体験をするようなのです。
私は、今のところ、それを体験するには至っていませんが、紹介した本の中には書かれていますし、実際にそれを体験した人も、そのようなことを言っていました。
それは、俗に言われている神秘体験・光体験と言われているような体験のようなのです。
また、座禅をしていて「悟りを得た」と感じるときの体験も、同じ体験であるようなのです。
以前、実際に光体験や神秘体験をした人から話を聞いていたことがあったり、インターネット上でも様々な情報を検索することが出来るので、「そんな体験があるらしい」ということは何となく知っていました。
ただ、選ばれた人(霊感があるとか、修行を積んだとか…)でないと体験出来ないのだろうと思っていました。
しかし、コア・トランスフォーメーションの手順を踏めば、誰でもそれを体験できるらしいのです・・・。
きっと、関心がある人には、非常に興味深い話だと思います。
まっ、体験できなかったとしても、あまり神秘体験や悟りなどにはこだわり過ぎない方が良いかなって思います。
興味本位でやる分には問題ないと思いますが・・・。
求めているのは、悟りや神秘体験などではなく、自然で楽な自分な訳ですから…。
追記:2013/05/31
私の趣味のブログ「科学的なことを想う」の次の投稿をお読み頂ければ、コア・トランスフォーメーションの本質的なことが理解できると思います。
03.行動をエスカレートさせてしまうことを防ぎ、本当の望みに気付く方法
今回は、コア・トランスフォーメーションのまとめとして、その考え方の日常生活への応用について説明します。
コア・トランスフォーメーションでは、そのプロセスを無意識の世界に委ねるのが基本でしたが、同様の手順を意識の世界で行っても大きな意味があると考えています。
例えば、次のようなことを考えてしまうことがあるかもしれません。
- 「もし、自分がお金持ちだったら、幸せだったのに…」
- 「もっと、勉強が出来れば、学校が楽しいのに…」
- 「もっと、顔立ちが整っていれば、人生は良いものになったのに…」
- 「もし、学校がなかったら、自由に生きられるのに…」
- 「あいつさえ居なくなれば、こんなに苦しまなくても済むのに…」
これらはあたかも本当の解決と思えるのですが、感情や心の苦しさを抱えたままの思考で導き出されている場合は、誤りの解決(偽解決)である可能性が高いのです。
※偽解決の詳細は、『カウンセラーじゅんさんのコンテンツ紹介ブログ:Lesson 8 なぜ、人は心の苦しさの原因を見誤るのか?』を参考にして下さい。
例えば、「お金がないから幸せじゃないんだ」と考えているところを想像してみて下さい。
そのように考えた人は、「お金持ちになったら幸せになれる」と思ってその考えに沿った行動するようになります。
(人によっては、「お金持ちになんかなれない」と諦めて、それを求めるような行動をしないこともありますが、「お金持ちになったら幸せになれる」ということを意識していれば同じです。)
しかし、そんな気持ちとは裏腹の「一生懸命に頑張って働いてお金持ちになったけど、幸せにはなれなかった…」という言葉を、誰もが一度は聞いたことはあると思います。
- お金持ちになったら、本当に幸せになれるのだろうか?
- でも、それが本当に求めていた答えかどうかは、お金持ちになってみないと分からない…。
人生の早い時期に、運良くお金持ちになれる人もいますが、多くの人は、その実現に人生の大部分を費やしてしまったり、人生の大部分を費やしたとしても実現できない人も多いはずです。
そんな状況の中で、必死に頑張ってお金持ちになった時、自分の口から出る言葉が、先ほどの「一生懸命に頑張って働いてお金持ちになったけど、幸せにはなれなかった…」だったとしたら、長い月日をそのために費やした意味は一体何だったのでしょう?
そんな事態に陥らないように、コア・トランスフォーメーションの考え方を活用するのです。
コア・トランスフォーメーションの手順の活用
冒頭でも述べましたが、コア・トランスフォーメーションでは、そのプロセスを無意識の世界に委ねるのが基本ですが、同じようなことを意識的に行うのです。
- 結果を得るためのプロセス(手段や経緯)を省略し、結果をイメージの中で体験する (例えばマラソンの選手が行うイメージトレーニングで、「自分が一位でゴールするシーンを何度もイメージする」ということと、似ているところがあります。)
そして、イメージの中で結果を十分体験した後で
- 別の望みが浮かぶようなら、それは本当の望みではない
- 別の望みが浮かんだとき、その結果を十分に体験し、別の望みが浮かぶかどうかを確認する。
- その確認を繰り返せば、やがて、別の望みが浮かばなくなる
- 別の望みが浮かばなくなったとき、それが、本当の望みである
前の例では、イメージの中で、お金持ちになり、「お金持ちになったらできるのに…」と思っていたことを十分にやって、やった結果の感覚を感じ取ろうとしてみます。
そこで、満たされた気持ちになるなら、「お金持ちになる」というものが本当に望んでいたことだということになります。
もし、そこで何か物足りないようなものを感じれば、「お金持ちになる」ということは本当の望みではなかったということになります。
(このように突き詰めていけば、例えば、「誰かと仲良くしたい」ということが本当の望みだったりすることもあります。)
【補足】
このとき、「もっと、お金持ちになる」「もっともっとお金持ちになる」というようなことを考えるのは、本当の望みを感じようとすることからの逃げです。
偽解決は、それを実現できたとしても、満足することが出来ないので、その手段や目標をエスカレートさせてしまいます。
逆に、エスカレートしていくような望みや願望は偽解決だと言っても過言ではないと考えています。
また、そこで何をしたら良いか分からないような場合も、本当の望みではなかったと考えられます。
このようにその手段や過程を省略し、イメージの中で結果を体験するということは、自分の心と真剣に向き合うことにつながり、その繰り返しの中で、「お金持ちになる」以外のこれで十分だと思える望みにたどり着きます。
(その望みは、自分も他人も決して傷つけたり、何かを壊したりはしません。)
本当の望みに気付けば、それ以上の望みは不要となり、「もっと、もっと!」という感覚(”more more”の状態)から解放され、望みや願望をエスカレートさせる必要も無くなります。
これは「何かに執着してしまった心が、その執着から解放され、本来の望みに向かうようになる」と表現することもできます。
一般的な思考では、自分の執着に気付き、そこから解放されるのはかなり難しいところがあるのでずが、このやり方はその助けになると思います。
そんな流れの中で、最終的に到達する本当の望みは、本来のコア・トランスフォーメーションによるものと近いニュアンスをもつところに納まるだろうと考えています。
- ただ在ること
- 内なる安らぎ
- 愛
- あるがままで大丈夫だという感覚
- 宇宙との一体感
日常生活の中で、これらの言葉をどのように解釈すれば良いか分かりにくいかもしれませんが、大まかには、「人とつながっていたい」、「人の中で安心でいたい」といったことだと理解すれば良いと思います。
「つながり」について、最近、ある結論を得ましたので、近々、ブログでご紹介するつもりです。
【補足】
可愛がっていた飼い犬が死んだとき、「飼い犬が生き返る」ことが本当の望みだという気持ちはとてもよく理解できます。
しかし、この手法では、それは本当の望みとしては扱いません。
本当の望みは、『現実の世界で、実際に実現可能な事柄』でなければなりません。