20 心理カウンセラーとの相性について
20-1 心理カウンセラーとの相性とは
心理カウンセリングを受けるにあたって、「心理カウンセラーとの相性が大切」と言われることがあります。
心理カウンセラーとの相性といっても、普通は、次に挙げるように、一般の人との相性と同じようなことを思い浮かべると思います。
○苦手なタイプではない
○話しやすい
○一緒にいて楽だ
○身構えなくても良い
○相手の話を受け入れやすい
○価値観が似ている
○信じられる
○違和感がない
私も、以前は、このようなことが心理カウンセラーとの相性を判断するポイントだと漠然と思っていたのですが、心理カウンセラーとして活動したことで、次のように考えるようになりました。
まず、心理の専門用語を用いて書いてみます。
■ 相談者の雰囲気や話し方などによって、心理カウンセラーが転移を起こしにくい
■ 相談者の話す内容(話題)によって、心理カウンセラーが転移を起こしにくい
「転移」という心理用語を使わずに書くと、次のようになります。
■相談者の雰囲気や反応(黙ってしまう、泣く、怒る・・・)や、話した内容などによって、心理カウンセラーが次のような反応をしない
・相談者の感覚や感情を否定する
・感情的になって怒る
・親身になり過ぎる
・相談者の現実の場面に直接的に介入しようとする
・問題の解決ばかりにこだわる
・自分の考えで説得しようとする
・自分が成功した解決策を勧める
・相談者の話に反応して、直ぐに自分の似た経験を話す
人は、もともとは誰もが優しいものだと考えています。
しかし、転移が起こると過去の人間関係でのつらい経験の記憶が蘇り、次のような反応が引き起こされてしまいます。
■過去に自分を苦しめた人とそれとは無関係な人とを重ね合わせてしまい、過去に自分を苦しめた人から自分自身を守るための反応を、その無関係な人に対しても起こしてしまう
■過去に自分を苦しめた人から他の人を守るために、過去に自分を苦しめた人から自分を守ることができた行動・反応・状態・考え方などを、守りたい人に強要してしまう
その結果、過去に自分を苦しめた人とは無関係な人にも、優しくできなくなったり、逆に、相手が求めていないのに「自分がして欲しかったこと」をしてあげようとすることがあります。
相談者に対して心理カウンセラーがこのように反応する傾向が強いと、心理カウンセラーは自分自身の思いに反応してしまい、相談者の気持ちを疎かにしてしまいがちになります。
その結果、相談者が「否定されないことを繰り返し体験し、安心な感覚に包まれる」という心理カウンセリングの「もう1つの目的」を実現できる確率が低くなってしまいます。
20-2 相性を直観的に判断すること
次に、心理カウンセラーとの相性を直観的に判断する危険性について説明します。
人から優しくされることに慣れている人は、相性を直観的に判断しても、特に問題は起こらないと思われますが、人から優しくされることに慣れていない人は注意が必要です。
人には、自分が慣れていないコミュニケーションをする人からは離れようとし、逆に、自分が慣れているコミュニケーションをする人には引き寄せられてしまう傾向があります。
「人に優しくされる」というところに焦点を当てると、人に優しくされることに慣れていない人は、人に優しくする傾向がある人から離れようとし、人に優しくしない傾向がある人に引き寄せられるところがあるといえます。
ですから、心理カウンセラーを選ぶときにも、そのような人を選んでしまう心配があるのです。
例えば、子供の頃に、たくさん褒めてもらった人は、自分のことを褒めてもらうと、それを素直に受け入れて喜ぶことができます。
ところが、子供の頃にあまり褒めてもらったことがない人は、自分のことを褒めてもらっても、「この人は、本当の私が分かっていない」とか「口では旨いこと言っているけど、腹の底では別のことを思っているに違いない」などと、相手が信頼できない人のように感じてしまうところがあります。
逆に、自分が短所だと思っているところを指摘したり責めたりする人を、「人を見抜く力がある」とか「自分のことをよく理解してくれている」と錯覚し信頼してしまうところもあります。
余談ですが、恋愛において、「なぜか、同じような問題を持つ人ばかりと出会ってしまう」という話を聞くことがありますが、それも同じようなカラクリによって起こることです。
これらから言えることは、人には、「自分にとって良いことに引き寄せられ、悪いことから逃れようとする」というよりも、「自分が慣れていないことから逃れようとし、慣れていることに引き寄せられる」性質があるということです。
もし、優しくされることに慣れていない人が、人が持つこのような性質を理解せずに、自分の直感だけに従ってしまうと、自分が慣れ親しんだやりとりをする相談相手を選んでしまう可能性が高くなります。
そのようになると、想定外のときに喜んでもらったり優しくしてもらったりする体験は期待できず、まだ自分が知らない「人の優しさ」に触れ、それに慣れていくことが難しくなってしまいます。