分かり合う
「お互いを分かり合う」といった言葉を、使ったり、耳にしたりすることがあると思います。
しかし、この言葉は、「どのようになったら、お互いを分かり合えたことになるの?」ということを、曖昧にしたまま使われていることが多いように感じています。
その曖昧なところを認識せずに、この言葉を使ってしまうと、人間関係をややこしくしてしまう恐れがあるので、ここでは、そのことについて、少し考えてみます。
1.期待していること
「分かり合うということ」は、その言葉を文字通りに解釈すると、
- 相手の言っていることを、自分が理解する
- 自分の言っていることを、相手に理解してもらう
という2つが同時に成り立っている状態を指していると考えられます。
従って、逆に、次の何れかの状況がある場合、分かり合えていないことになります。
(1)相手の言っていることが理解できない
(2)自分の言っていることを理解してもらえない
これらは当たり前のように感じるかもしれません。
しかし、日々の生活の中で、「分かり合う」という言葉を意識することが多い人は、(2)に意識が向いていることが多いように思います。
つまり、「分かり合えない」は、「分かってもらえない」ということを指していることが多いのです。
また、(1)に意識が向いていても、「相手のことを絶対に理解しよう」という 気持ちではないとき、多くの場合、
- 相手の言っていることは、受け入れられない
- 自分の言っていることの方が正しい
などと、相手を非難するような心理状態になっていることが多いような気がします。
自分の言っていることを分かってもらおうとしても、このような雰囲気の中で発せられる言葉は、相手に、『自分の言っていることは無視されて、相手の言い分だけを押し付けられている』という印象を与えてしまいます。
相手がよほど心の広い人でなければ、このような言葉を聞き入れることは難しいだろうということは、想像できます。
「分かり合う/分かり合えない」ということを意識しているというだけで、このように、知らず知らずのうちに、自分の言い分だけを主張してしまいがちになる恐れがあるのです。
つまり、「分かり合う」という言葉の裏には、多くの場合、「分かってもらいたい」という期待の気持ちが隠れているのです。
これらのことから、「分かり合えない」と感じるときは、まず、「自分は、相手のことを理解しようとしているのだろうか?」とチェックしてみることが大切です。
2.知り合う
- あなたの気持ちを理解しました
- 私の気持ちを理解してもらえたと感じました
お互いがこのように思えたときに、「分かり合えた」という状態が成立します。
そして、分かり合う為の一連の作業は、そこで『おわり』です。
相手の気持ちを知ると、自然に、歩み寄ろうとする動きが、お互いの心に生じます。
そして、その結果、お互いが満足できる結果にたどり着くことが出来るのです。
つまり、自分の気持ちを伝えた後は、相手の気持ちの中に歩み寄りの動きが生じることを信じていれば良いだけのことなのですが、それを信じられないと、その先を求めてしまうのです。
ですから、「理解する」というよりは、「知る」という言葉を使う方が、本当のところに近いのではないかと思えます。
3.その先を求める意味
例えば、頑なに自分の考えだけを通そうとする人と長い間共に過ごしているときのことを考えてみて下さい。
たまたま自分と相手の気持ちが一致したときは問題無いのですが、それ以外のほとんどの場合、『相手の言ったことを理解する』ということは、『自分の気持ちを我慢し、相手の思う通りに行動しなければならない』ということを意味するようになってしまいます。
ですから、そのような相手と過ごす中で、自分の気持ちを大切にしようとすると、相手を否定し、自分の気持ちを押し通すしか道が無くなってしまうのです。
そして、そんなやり取りが習慣化してしまうと、自分の思う通りに相手が思ってくれないと、相手の思いを押しつけられているように錯覚してしまい、『自分の思い通りに相手が思うこと』を求めてしまうようになるのです。
もし、あなたに、白黒はっきりさせたくなる傾向があるとしたら、まず、始めに「今まで、気持ちを聞き入れてもらえない状況で、よく頑張ってきたね。」と、自分自身をねぎらってあげる必要があるかもしれません。
そして、『知れば気持ちは動くもの』ということを、とりあえず知っておいて下さい。
無理に信じようとしなくても大丈夫です。
これも、知るだけで、きっと、自然に信じることが出来るようになってくると思います。
4.結論を出さないことが大切
「3.その先を求める意味」の例のような状況で結論を出してしまうと、ほとんどの場合、どちらか一方が不満な状態に陥ってしまいます。
そして、そのような結論は、それぞれが主張していた気持ちに、「正しい/正しくない」という判断を下してしまうため、正しくないとされてしまった方の気持ちが、『大切な気持ち』として、お互いの心に残りません。
その後、同様の状況になった時に、「あの時はこう言った/言わない」という不毛な口論に陥りやすいのは、そういう理由だと思っています。
ですから、お互いの気持ちに相違が生じたとき、相手の『自分の気持ちを押し付けようとする傾向』がそれほど強くない場合は、結論を出さずに、お互いの気持ちが動くことを信じて、「お互いの気持ちを知り合った」というところで、留めておこうとしてみて下さい。
相手に、「お互いの気持ちが違うから困ったね」などと言ってみても良いかもしれません。
相手から「そうだね、困ったね・・・」というような言葉が返ってきたら、相手の気持ちが動いていることを感じることができるはずです。
また、相手の『自分の気持ちを押し付けようとする傾向』が強いと感じるときは、その議論に少し距離感をもって臨もうとしてみると、相手のペースに巻き込まれ難くなったり、これまでとは違った対処方法に気づいたりするきっかけになります。
この文章は、自分自身の理解だけでなく、歩み寄らない相手の事情を理解するためにも、きっと、参考にして頂けるのではないかと思っています。
そして、相手の事情が理解できれば、やはり、心は動くのです。