16 心理カウンセリングに隠された「もう1つの目的」
心の苦しさを解消するために心理関係のことを勉強し始めることがあります。
しかし、心理学的な知識に詳しくなれば、心の苦しさの解消に近づいていくかというと、そうではありません。
また、心理関係の種々の団体や組織での資格や地位を手に入れたとしても、それは心の苦しさの解消とは別次元のことです。
自分の心の苦しさが解消したように感じることはあっても、それだけでは、本質的な部分はほとんど変わりません。
同じように、心理学に詳しいとか資格や地位や権威などの視点で心理カウンセラーを選んでも、心の苦しさの解消につながるとは限らないのです。
心理カウンセリングが行われているとき、そこには相談者が解決したいと考えている課題や目的があり、それを実現するために、心理カウンセラーは協力者として相談者に寄り添います。
当然、相談者は、自分の考える課題を解決することが、心理カウンセリングの目的だと思っています。
その認識も正しいのですが、実は心理カウンセリングには、相談者が意識しない「もう1つの目的」があります。
そして、心理カウンセリングの場に、その「もう1つの目的」が存在し続けることが、心の苦しさや相談者が考える課題を解決するためには、何よりも大切なことなのです。
「もう1つの目的」とは、次のようなことです。
■「どのような状態の自分であっても、否定されない」ということを、相談者が何度も繰り返し体験すること
これは、相談者が解決したいと思っている課題と直接関係がなさそうなのですが、とても大切なことなのです。
心理カウンセリングルームと日常生活の間を行き来する相談者は、公園で遊具とお母さんの間を行ったり来たりする小さな子供に例えることができます。
子供が泣いていても、怒っていても、母親に抱き上げられて「そうか、そうか」と言いながらあやしてもらえれば、必ず元気を取り戻します。
そして、例えば、子供が滑り台から転げ落ちて泣いていたとしても、安心を取り戻して、自分からみんなが遊ぶ滑り台へと駆けていきます。
ところが、子供を抱き上げずに「大丈夫だから滑ってごらん」とか「みんなも滑っているから楽しいよ!」などといって、無理に滑り台で遊ばせようとすると、逆に、子供は滑り台に近づけなくなってしまいます。
一部の人は「子供を甘やかすと、母親から離れられなくなる」と信じているようですが、事実は違います。
「つらいときには、いつでも抱きしめてもらえる」と思えるように接してもらっていると、子供の心に「何かあれば、母親のところへ戻れば良い」という安心感が定着して、逆に、母親から離れる力として働いて、子供を広い世界へと送り出すことにつながるのです。
自分のどんな感覚や感情を心理カウンセラーに伝えても、いつも全く否定されずに聞き入れてもらえることによって、何を感じるかを実際に体験してみて下さい。
きっと、母親に抱き上げられて「そうか、そうか」とあやしてもらった子供が、元気を取り戻して母親の元から離れていくときの気持ちを体感できるはずです。
普通は、「もう1つの目的」を心理カウンセリングの場に持ち込むのは心理カウンセラーの役割です。
しかし、心理カウンセリングの場に「もう1つの目的」が存在し続けていることが重要で、それを誰が持ち込むかは重要ではありません。
「もう1つの目的」が心理カウンセリングの場から消えてしまわないようにすることが大切です。
ですから、相談者も「もう1つの目的」のことは、知っておいた方が良いと思います。