(付録) 心理カウンセリングの活用
最後に、ここまでの説明を踏まえて、心理カウンセリングを活用するときのポイントを簡単に説明しておきます。
一般の人に相談するときにも参考にして頂けると思います。
(心理カウンセリングが心に働く理由などの詳細は、第2巻で説明します。)
1 心理カウンセラーと普通の人の違い
例えば、「今度、結婚することになりました」と言ったときに、普通の人は、「おめでとう!よかったね」といったことを無条件に言いがちです。
それに対して、心理カウンセラーは、例えば「そうなんですね・・・。
ところで、それは、あなたにとって良いことなのですか?」といった確認をし、「はい、良いことです」と答えれば、「それは良かったですね、おめでとう!」といった応答をし、返事によっては「何か心配事があるのですか?」というような応答をします。
簡単にいうと、「心理カウンセラーは、心理カウンセラー自身や世間的な主観ではなく、相談者の主観を大切にしようとする」といえるでしょう。
2 心理カウンセリングのポイント
2-1 自分の感情に気付くきっかけ
普通の人に話せば、ただの愚痴で終わってしまうような話でも、心理カウンセリングでは、そこに隠れている感情に焦点を当てながら話を聞いてもらえるので、自分の本当の感情や本当の望み(正確には『過去に諦めたこと』)に気付くきっかけとなります。
2-2「自分にとっての普通」の特殊性に気付くきっかけ
「普通は○○だ」というとき、その裏には自分の本当の望みが隠されています。
大抵の場合、「普通は○○だ」と言ったとき、何かを諦め「普通」に妥協しています。
2-3 悲しみの感情・苦しい気持ちを排出する練習
心に苦しみを抱え込んでしまう人は、それまでの人生の中で、感情を表現しないように訓練してきたところがあるので、感情はなかなか排出できません。
心理カウンセラーは、「感情を表現しても大丈夫!」という安心な雰囲気を作ると共に、感情をうまく高めてくれるので、排出しやすくなります。
そして、「感情を排出し、人に聞いてもらったら楽になった」という経験を積み重ねると、「楽な状態」で気持ちが安定するようになってきます。
2-4 話したいのに話せないことに気付くきっかけ
心理カウンセラーは、沈黙も、相談者の心が動いている時間として大切にしますが、必要に応じて「今、どんな気持ち?」とか「何か話しにくいことがあるのですか?」などと質問したりして、「話せなくなってしまっている」といった自分の状態に気付かせてくれます。
「話しにくい事柄の内容」ではなく、「話しにくいと感じている気持ち」の方に意識を向けると、それまで気付かなかった自分の気持ちを理解する助けになることもあります。
2-5 苦しくなったときの臨時の居場所として
普段の人間関係の中に安心できる人が見つかるまでの、臨時の居場所として心理カウンセリングを活用できます。
また、「全ての人が敵になったとしても、心理カウンセリングルームは自分の居場所にできる」と思えるだけで、心理カウンセリングルームに行かなくても安心に過ごせるようになることは多いです。
(本来なら、家庭がそのような場所であることが望ましいのですが・・・)
2-6 コミュニケーションの正常化
「5 条件反射に支配され思い通りに行動できないストレスによる苦しさ」のところで幾つかの例を挙げましたが、条件反射による反応が、「今ここで感じて、今ここで考えて、今ここで行動する」という自分らしい自然な反応を邪魔します。
心理カウンセラーとのやり取りで自分に生じた気持ちを「~と言われてつらかった」、「~と言われて嬉しかった」と心理カウンセラーに伝え、「つらい思いにさせてごめんなさい」とか「嬉しかったんですね」と受けとめてもらう体験を通して、コミュニケーションは正常化していきます。
また、否定されそうに感じていた気持ちを話しても、心理カウンセラーは「その場合は、こうすべきでしょ!」とか「相手がこういう気持ちなんだから、あなたはこういう気持ちになりなさい」などとは言わずに、サラッと聞いてもらえます。
そのようなときに、「あれ、どうして責められないの!?」、「どうして喜ばないの!?」というように不思議に思う体験をすることがあります。
そのような「あれ?」の積み重ねが、自分を守るための条件反射を緩めていくことにつながり、コミュニケーションを正常化させる助けとなります。
2-7 甘える練習
「甘える」とはどういう意味か分かっていない人は多いようです。
「甘える」の誤った認識は、例えば、次のようなことが挙げられます。
○相手とたくさんスキンシップすること
○無理なお願いをきいてもらうこと(自分の思い通りに相手をコントロールすること)
しかし、心理的な意味で本当に甘えるとは、次のようなことだと考えています。
○嬉しいときに嬉しそうに話し、「良かったね」と嬉しそうに言ってもらう
○悲しいときに悲しそうに話し、「それは悲しかったね」と心配そうに言ってもらう
つまり、「甘えるとは、どんな感情が生じても、そんな心を抱きしめてもらうこと」と表現できます。
そのようなコミュニケーションができる人との関わりが、心を安心な状態に回復してくれます。
ですから、きちんと甘えるためには、まず、「嬉しいことを嬉しそうに話す」、「つらいことをつらそうに話す」ということをする必要があります。
そのためには、自分の感情にきちんと気付いていることが大切なのです。