17. 予感と行動
まず、人の心を理解する上で、行動の仕組みを整理しておくことが大切だと思います。
17-01. 学習の過程
人は次のような過程を経て、行動を身につけていくと言われています。
ちょっと、細かく書きますが、あまり重要ではありませんので、ざっと、流して頂くくらいで大丈夫です。
- 無条件反応(無条件反射)
- 条件反応(条件づけ・条件反射)
条件づけには、次の2種類があります。
- レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)
- 感情・態度などの反射や不随意反応の条件づけ。(動物がもともと持っている無条件反応を、元来関係の無い刺激と結びつける条件づけ)【例】 もともと梅干を見ても唾液は出ないが、梅干を食べると唾液が出る。 その経験を繰り返すと、梅干を見ると唾液が出るようになる。
- オペラント条件づけ(道具的条件づけ)
- ある自発的な行動の結果、自分が経験した快・不快の感覚によって起こる条件づけ【例】 行動した結果が自分にとって快であればその行動を繰り返そうとし(強化)、逆に、不快なものであれば、それを避けようとする。(抑制)
- モデリング
- 他者の振る舞いを観察し真似ることによって新しい行動を身につける。 モデリングは、新しい行動を効率良く習得するのにとても有効な方法だと言えると思います。 そして、このモデリングの過程でも、オペラント条件づけは起こります。 『レスポンデント条件づけ』は人間がもともと持っている反射がコントロールするものなのであまり重要ではないと思われます。 私たちの日常生活での心理を考える場合、『オペラント条件づけ』による学習による影響は非常に重要だと思われます。
17-02. 予感(雰囲気)
前節では、学習について、無条件反応(遺伝的反応)か条件反応(後天的反応)かという区別や、オペラント条件づけレスポンデント条件づけとかいう区別について、ちょっと細かく説明しましたが、実は、そのような細かなところの理解は、あまり重要ではありません。
この章でお話したかったことは、
ということを理解することが重要だと考えています。 学習の結果は、
と考えています。
予感という言葉を使っていますが、もしかしたら、雰囲気や気配という言葉の方が近いかもしれません。
しかし、自分の感覚ということを表現するために『感』という文字を使いたいので、これから先の説明では、雰囲気ではなく、予感という言葉をあえて使うことにします。
これまでの経験と似たような状況に遭遇した時、初めての時と同様に、五感を働かせて情報を収集し、分析し、考えて、行動するという段取りを踏んでいては、時間がかかって仕方ありません。
特に、危険から身を守らなければならないような状況では、過去の経験を活かし、迅速に対応しなければなりません。
そんなときに、過去の記憶を引き出して考えていたのでは、経験を活かすことはできるかもしれませんが、迅速に対処するということからは程遠い対処になってしまうのではないかと思います。
そこで、人には(人に限った事ではないかもしれませんが)、記憶を予感というところまで加工し、その予感に基づき反応することで、迅速に状況に適応し対処できるような機能が備わっているのではないかと考えています。
学校の教室の入り口の扉の上に、いたずらで黒板けしが仕掛けられていて、それに気付かずに、扉を開けたところ、黒板けしが頭の上に落ちて、頭がチョークの粉で真っ白になってしまったとします。
そんな経験が2・3回続けば、今度、扉を開けるときは、たとえ、今度はいたずらがされていなくても、頭の上に何かが落ちてきそうな予感を感じ、その予感に応じた姿勢で扉を開けようとしてしまう
この例では、その時の五感の情報をもとに、過去の経験を加工した予感を自分の頭の上の方に感じるようにし、上方を注意するという動作を起こさせ、過去と同じような事に陥ることを防いでいると説明できると思います。
人は、この予感を感じるという機能によって、自分にとって好ましそうな状況には引き寄せられ、好ましくない状況を回避するような行動を起こさせられ、自分が存在する環境において安全を確保することができるのだと思います。
そして、これによって身に付く対処は自動化されているので、意思や考えが入り込み難いという性質が生じるのではないかと思います。
この意思や考えの入り込み難い様子を、これまで、『潜在意識』や『深層心理』が影響していると考えていたようなのですが、個人的には、ただ、自動化されているという性質があるだけで、そんな『深層心理』とかいうややこしい概念を持ち込まなくても良いのかもしれないと感じています。
そして、「これまで生きてきた環境ではその自動化が必要だった」という事情を理解することが、俗にいうところの『深層心理を知る』の意味するところではないかと思います。
17-03. 予感(雰囲気)と記憶
予感は過去の経験によって形作られるということは、前節の説明で理解していただけたと思います。
そして、過去の経験は、記憶として残っています。
ですから、『意識』『無意識』ということが当たり前のように言われていますが、『無意識』や『深層心理』といったことなど本当はありえないのかもしれないと思うのです。
前節の続きで説明すると、
簡単に言うと、『無意識』という言葉は、色々なことの責任をなすりつけるには絶好の言葉だったのだろうということです。
『無意識』を引き合いに出すことで、「それ以上現実的に理解しようとしても理解できない」ということは正当化することができます。
(また、「心を現認することは出来ない」という性質と「無意識という言葉が生み出された事情」とがあいまって、現実から離れた空想の世界での議論に陥ってしまいやすくなったのだろうと思います。)
まとめ
次章では、この仮説を『心の働き』に広げて説明したいと思います。
予感に関する補足
予感は、次のような流れで、私たちの中に定着していくのではないかと思います。
- その時に感じることで得た様々な情報によって、そのような状況において経験した過去の類似体験を想起し、イメージの中で再体験し、次に起こることに備えようとする。(条件反射的なことは、これに当てはまるのでないかと思います。)
- 1.の経験を繰り返すことで、それが再現される確立が高まると、直感的に行動が起こるようになる。(反射的な行動が、これに当てはまるのではないかと思います。)