02 投影・転移とTA(交流分析)との関係
実際の場面で投影・転移に気づくために、TAの考え方は参考になります。
そこで、TA(交流分析)と投影と転移の関連について説明します。
02-01 「P」「A」「C」と仮想人格との関連
「投影と転移」で説明した転移・逆転移や仮想人格は、TA(交流分析)の交流(やりとり)分析の理解に符合するところがあります。
ここでは「仮想人格」で用いた図4とTAの「P」「A」「C」との関連を説明します。
自我状態 (TA) | 図4の該当部分 | 役割・機能の説明 |
CP | ■転移仮想人格 ・陰性転移仮想人格 ・陽性転移仮想人格 | 【投影仮想人格の見張り役】 ・自分を守ろうとする ・想定する危険を回避しようとする ・失敗を戒める |
NP | ■転移仮想人格 | 【自分の応援団の案内係】 ・攻撃を受けて疲弊した自分を労り、癒そうとする ・失敗の心労や疲労を回復させようとする |
A | ■第3の耳 | 【冷静な観察・思考者】 ・客観的に状況を把握する ・論理的に理解し行動しようとする ・『FC』の自由度に比例して『A』は活性化する |
AC | ■投影仮想人格 | 【自分の監視役】 ・自分を守ろうとする自分 ・自分の行動・言動・思考などを監視し、危険の恐れがあればそれを修正する ・防衛機制(=条件反射)を実現する |
FC | ■投影仮想人格 | 【自分の応援団】 ・自分を楽な状態に回復させようとする ・安心な状況であれば、自分の気持を後押しする |
■現実人格 | 【自然に振舞おうとする本当の自分】 ・自分らしく振舞おうとする |
02-02 投影・転移の交流分析(やりとり分析)による理解
「PACと仮想人格との関連」の表と、図4を比較すると、ストロークのやり取りが、『同じ自我状態間の相補交流』になっていないとき、または、『交叉交流』になっているとき、投影・転移が生じている可能性があることが分かります。02-02-01 投影・転移の可能性の低いやりとり
■同じ自我状態間の相補交流
- 同じ自我状態にストロークを投げる
- 同じ自我状態からストロークを返す
■受容的な相補交流
相手の感情や状態を受容する際のコミュニケーションです。
- 相手のC(AC、FC)からのストロークをNPで受ける
- NPから相手のCに対してストロークを返す
02-02-02 転移が疑われる交流
以下で示した図のようなやり取りが、図6で示した状態を作り出します。
また、感情は、転移・投影に気付くための目安となります。
自身の感情が何らかの高まりを見せているとき、転移が疑われます。(もちろん、相手の感情が、自分の予測に反して高まっているときも同じです。)
※以下のコミュニケーションを表す図は、該当パターンの一部を例示しています。
■転移(その1)
- 相手から受けた言葉以外の何らかの刺激の影響を受けて、自分が相手の異なる自我状態にストロークを投げてしまう
■転移(その2)
CP-AC間の相補交流
■転移(その3)
実際の裏面交流による交流
- 相手が、裏の意味をもつストローク(ダブルバインド)を投げる
- 自分は、表向きの意味をもつストロークではなく、本当の意味が隠された裏のストロークを『CP』、『AC』で受け取る
- ストロークを受け取った自我状態から、相手が裏のストロークを投げた自我状態(『CP』、『AC』)にストロークを返す
※交叉交流は、基本的には、実際の裏面交流、又は、架空の裏面のストロークを受け取ることで生じると考えられます。
■転移(その4) 架空の裏面交流を感じてしまう
- 相手が、相手と同じ自我状態にストロークを投げる
- 自分は、実際には投げられていないストロークを感じ取り、『AC』や『CP』でそのストロークを受け取る
- ストロークを受け取った自我状態から、相手がストロークを投げたと感じる自我状態(『CP』、『AC』)にストロークを返す
02-03 親子のやり取り
子供(特に、幼児期までの子供)の自我状態は主に『C』が占めており、『C』も殆どが『FC』に占められていると考えられます。
『P』『A』がほとんどないのです。
ですから、状況の判断能力・理解力・経験不足などの課題は多々あるものの、交叉交流・裏面交流を引き起こして、コミュニケーションを阻害する心理的な課題が子供の側にあるとは考えにくいところがあります。
逆に言うと、親子関係のこじれる原因の殆どは、親が引き起こす転移にあるといえます。
そして、その転移の原因は、親が子供の頃の親子関係にあります。
これが、心の苦しさが家系を世代をまたいで伝わってしまう理由です。
02-03-01 一般的な親子関係
(1)暖かく見守る
子供に対して受容的に接するのは、親が子供と接するときの基本的な姿勢です。
この交流を子供との日常的なやり取りとすることが、子供が自分の経験に基づいて、自分のペースで『A』の能力を伸ばしたり、必要最小限の『AC』を身につけたりしていくことを助けます。
(2)教育する
親が理解したことを、子供の理解力や理解のペースに合わせて、情報として論理的に地道に伝えてきます。(実際は、子供の『A』に働きかけるのではなく、子供の『FC』にうまく働きかけながら少しずつ『A』を育てていくようなイメージになると思います。)
(3)しつけ
善悪を身につけさせるために、『叱る』という対応を用いることがあります。
この際、親は感情的にはなっていないのですが、怒っている芝居をします。
【注意】
これを感情的になってやっているときは、転移が起こっています。
親自身の過去を振り返れば、そのように責められていた場面、又は、他の人がそんな風に責められているのを見ていなければならなかった場面を思い出すはずです。
子供に感情的になってしまう自分を責めるよりも、まず先に、自分自身の感情を誰かに受け止めたり受け流してもらったりする練習をし、自分自身の心を癒すことが大切です。
(4)遊ぶ
子供から投げられるストロークのほとんどは、子供のFCから親のFCに投げられるものです。
その全てを、親が自分自身の色々なこだわりから、子供に対して(1)(2)(3)のようなやり取りをしようと頑張ります。
しかし、そんな風に頑張ってばかりいると、心がくたびれてしまいます。
時にはこだわりを捨て、FCで反応するようにすれば、子供を無視せずに適当に関わり&受け流しながら、気持ちを休めることを助けてくれると思います。
02-03-02 親に転移が引き起こされている時の親子関係
(1)子供にとって、親からのストロークは、殆どが交叉交流となる
子供の自我の殆どは『C(FC)』です。ですから、親からのストロークは、NPからのものでなければ、そのほとんどは、交叉交流になっています。
つまり、子供を主体に考えれば、親が子供と仲良く遊んでいるとき以外は、親は転移を起こしていると考えることができます。
(2)子供の『A』には伝わりにくい
親が子供の『A』にストロークを投げたつもりでも、子供の『A』は大きく育っておらず『FC』で受け取ってしまうことが多くあります。
(2-1)子供は遊びとして、親の『FC』に向けてストロークを返す
これに親が感情的になって応答すれば、転移が生じていると言えます。
(2-2)子供は反抗して、親の『CP』にストロークを返す
この場合、子供が自分の嫌な気持ちを正直に表明しています。
これに感情的に反応している場合、親には転移が生じています。
転移に振り回されなければ、子供の感情を、子供扱いして受け流したり、抱きしめたりしながら、うまく収めることができます。
(2-3)子供の能力不足による誤解
親にとって簡単なことでも、子供には理解出来ないことは多々あります。
しかし、親にその認識がないと、簡単なことだと思って教えたことに、子供が質問すると、屁理屈や反抗的な態度として受け取って、感情的な対応をしてしまうことがあります。
また、親の子供の頃に「いわれたことはすぐに理解しないといけなかった」という経験があるために、その転移が生じているとも考えられます。
【補足】
親の『CP』や『NP』は、更に、社会や学問の世界の常識に汚染され、親は誤った常識と目の前の現実とのギャップに混乱させられます。社会の常識も、人に転移を生じさせるということです。