ボクと君とのトラウマ・タイムトラベル
(うつむきながら打ち明ける)
「僕には、誰にも言ってなかったつらい思い出があるんだ・・・ あんなことが無かったら、今の僕がこんなに苦しい気持ちになることもなかった・・・」
(心配そうに僕の顔をのぞきこむ)
「今でも、そんなに気になっちゃうの?」
「じゃぁ~、僕と一緒に助けに行ってみない・・・?」
「行くって、どこへ?」
「君が気にしている過去にだよ」
「もう過ぎてしまった過去なのに?」
「でも、気になるんでしょ? もう過ぎてしまった過去のことが・・・」
「うん」
「だったら、行こう? ボクも一緒に行ってあげるから・・・」
(しばらく、考えた後で)
「うっ、うん・・・、行ってみようかなぁ・・・・」
僕は、まだ迷っていた。
「何だろう、この気持ちは・・・?」
(僕の気持ちを読み取ったように)
「考えてばかりいても仕方ないよ。
とりあえず、行ってみようよ・・・ 今度は、ボクも一緒だから!」
「そうだよね、今まで、散々考えてきたんだもんね・・・」
僕は目をつぶった。
(間 ・・・ タイムトラベルする)
「着いたよ」 僕は恐る恐る目を開いた。
いじめっ子が、子供の頃の僕に、馬乗りになっている。
「あぁ~、この場面だ・・・」
「あの時、言えなかった気持ち、言葉にしてみたら!?」
(か細い声で)
「や・め・て・・・」
「そんな言い方で大丈夫なの?」
(心の感じを探っている。そして、自分の気持ちのボリュームの大きさに気づき叫ぶ)
「やめてくれ!」
「バカヤロー!」
周りを見渡した。
クラスのみんなは、ただ見ているだけだった
「何で誰も助けてくれないんだよ!」
「どうだい?」
「スッキリした!」
僕は、胸につっかえていたものがとれたような気がした
「もっと言ってみるかい? それとも、もういい?」
(もう、何もかもが、すっかり解決したという様子で)
「もう大丈夫!」
心の底からそう思えた。
こんな晴れ晴れとした気分は、ほんとうに久しぶりだった。
もう、あの苦しさから解放される・・・、 そんな予感がしていた。
「実はねぇ~、本当の理由って別にあるんだけど・・・、知りたくない?」
「えっ!?」 僕は、君が何を言っているのか分からなかった。
「今は、言えなかったことが言えて、スッキリしたけど、 あの時はどうだった?」
「何も言えなかった・・・」
「そうだったよね・・・。で、どんな気持ちだった?」
「悔しかった・・・・、つらかった・・・。」
「そうだね・・・、悔しかったね・・・、つらかったよね・・・ その気持をどうしたかってことなんだよ・・・。 どうする、知りたくない? 」
そんなこと関係ないと思ったけど、それがウソか本当か確かめてやることにした。
「知りたい・・・」
僕らは、『あの頃のボク』に、そーっとついていった。
家に向かう姿は、とてもつらそうだった。
家に着いた。
玄関の前に立つと大きく息を吸い込んで、ドアを開けた。
(何事もなかったかのような調子で)
「ただいまぁ~」
(優しい母親の声)
「おかえりー!」
自分の部屋に入っていった。
いつもの光景だった。
何の問題も無ないと思った。
(大人の僕に対して)
「今、『あの頃の君』は、とってもつらいんだよね?」
「うん・・・」
「一人きりで大丈夫だと思う?」
「大丈夫?・・・、・・・、 大丈夫・・・じゃない・・・、大丈夫じゃないよ!」
『あの頃のボク』にきいてみた。
「どうして、一人でいるの? どうして家族のところへ行って、一緒にいてもらわないの?」
「だって・・・」
( 間 ・・・ 『あの頃のボク』は「つらい」って言えな理由を、色々と考えている。)
やっぱり、話せない・・・、 話してもしょうがないんだ・・・
でもね、話さなくても、ひとりで我慢していたら、 ボクは強くなれるんだよ。
ボクが強くなるまでの我慢。
ボクが強くなれば、もう、苦しくなくなるんだよ。」
「本当にそうなの? 本当にそう思っているの?」
(怒ったように)
「いいんだって!放っておいてよ! ボクがもっと強くなればいいことなんだから!」
「そうだね、そうやって我慢するしかなかったんだね。 でも、本当はどうしたかったの? どうして欲しかったの?」
「無理なんだよ! 絶対に無理なんだって!」
「無理 ?? 無理って、・・・何が無理なの??」
( 『あの頃のボク』は黙って考え、しばらくの沈黙 )
( 突然、何かに気付き、我慢していた感情が溢れ出すように泣きながら・・・・ )
「本当は・・・、優しくして欲しかった・・・ お話を聞いてもらいたかった・・・ 抱きしめてもらいながら、いっぱい泣きたかったんだよ! だって、つらかったんだもん・・・、悔しかったんだもん・・・」
僕は、泣きながら話す『あの頃のボク』を抱きしめた。
「そうだったんだね、よく我慢したね。 よくひとりで頑張ってこれたね・・・。
( 『あの頃のボク』は、僕の腕の中で泣いている )
「でも、もう大丈夫、我慢しなくてもいいんだよ。 泣きたいときは、泣いてもいいんだよ。」
( 『あの頃のボク』は、僕に抱かれながら、泣いている。 )
( 何十年も溜めてきた涙を搾り出すように泣いている )
( つぶやくように )
「ずっと、こうしたかったんだよ・・・」
( しばらく、そのまま泣いている )
僕の腕の中で、『あの頃のボク』は、安心した表情に変わっていった。
僕は理解した トラウマと思っていたことは、心の苦しさの本当の原因ではなかったことを・・・。
僕は理解した 心が苦しくなっても、ちゃんと楽にできる方法があることを・・・。
「もう大丈夫だよ!」
(少し恥ずかしそうに・・・)
「また、つらくなったら、来てもいい?」
「うん、いつでもおいで。 楽しいときもおいでよ、一緒に喜んであげるから。 何もないときもおいでね、一緒に暇そうにしてあげるから」
「うん! ありがとう!」
そう言うと、『あの頃のボク』は、元気そうに、自分の部屋から飛び出して、 どこかに遊びに行ってしまった。