04 認知の歪み

認知の歪みという言葉があります。
この言葉は、「コップ半分の水」という話によって、プラス思考・マイナス思考という概念を用いて説明されることが多いです。「コップ半分の水」の話では、水が半分入ったコップを見て「水がコップに半分しかない」と考えるとマイナス思考、「コップに半分も水がある」と考えるのがプラス思考と説明されます。
この話を、「コップ半分しかない」と考えずに「コップ半分もある」と考えられるように、認識の仕方を修正することが大切だと理解している人もいます。
「同じものでも違う見方がある」という考えに従えば、その理解で良いのかもしれませんが、心の苦しさを理解しようとする場合、その理解だけでは足りません。
例えば、綺麗な泉の近くに住んでいるのなら、別に水は重要ではないので「コップ半分もある」と考えるのは当たり前です。たとえコップが空っぽでも、それを問題に思うことはありませんし、その事実によって絶望させられることもないでしょう。
水についての重要性や問題点が意識に上ることすらないのが普通です。
ところが、砂漠の真ん中に住んでいるとしたら、「コップ半分もある」と口では言えても、そのコップの水を一気に飲み干すことなど、できるはずがありません。
大事に少しずつ飲むはずです。
砂漠の真ん中では、「コップに半分もある」と思うのは自分を誤魔化すためであって、心からそう思っているのではないのです。
これらのことから、認知の歪みとは、「意識している対象に関する認知」ではなく、「意識している対象の背景(意識している対象以外のこと)に関する認知」によって生じているといえます。
ですから、何かを問題だと思っているとき、その解決に取り組む前に、それを取り巻く状況を、例えば、次のようなことを区別して認識することが大切です。
○今の自分は本当に砂漠にいるのか?
○もし砂漠にいるとしたら、他の場所にオアシスはないのか?
○自分にとってのオアシスとはどのような場所なのか?
○そこが砂漠ではないなら、それは、まだ問題のままなのか?
「現在の自分が置かれている状況」に関する認知の歪みを修正するために、過去を思い出す作業が有効なことがあります。
過去に自分が暮らしていた本当の砂漠に気付くことで、その対比として、今の自分がいるところが過去の砂漠から分離されて、客観的に評価できるようになります。
そして、今いるところが砂漠ではなくオアシスであると気付けば、砂漠で必要だった行動は自然に消失していきます。
もし、今も砂漠にいると分かったとしても、そこを自分にとってのオアシスに変えたり、今いるところから離れて別のところに自分にとってのオアシスを探し出したりできるようになります。
ただ、過去のつらかった出来事を思い出せば、過去のつらい感情も再体験することになるので、生じた感情は放置せずに、その心理カウンセリングの中で回復させておく必要があります。
せっかく薄れていた記憶を鮮明に思い出すことになるので、生じた感情に適切な対処をしないで放置すると、トラウマを強化してしまうことになります。
また、再体験によって生じた感情が否定されると、更にトラウマを強化してしまったり、心理カウンセリングに対する新たなトラウマを作ってしまうことになります。
心理カウンセリングに苦痛を感じているとき、その心理カウンセリングでは、自分の感情を否定されたり、放置されたりしていると思うなら、その心理カウンセラーとの相性は良くなかった可能性があります。
ただ、自分の本当の気持ちを隠したり我慢したりし続けていても、同じように苦痛が生じます。
ですから、心理カウンセリングに苦痛を感じているときは、心理カウンセラーに「心理カウンセリングを受けるのがつらい」と話し、その気持ちを心理カウンセラーが受けとめてくれるかどうかで、相性を判断する材料とすることもできます。