12 運命を分けるささやかな望み
前節では、日常生活の中で、自分に生じるちょっとした望みに気付いて、1つ1つ実現しながらたくさんの小さな満足で自分を包んでいくことが、幸せを感じることや自分らしく生きることにつながるという説明をしました。
これと同じように、心理カウンセリングの目標も、心理カウンセリングの中で「望めば叶う」というイメージをつかみ、「日常生活でも、自然に望んで叶えられるようになること」ということもできます。
ただ、本当は、直ぐ叶うような些細なことなのに、相手の問題によって、それが妨げられることがあります。
それは、「望めば叶えられるちょっとした望み」の最後の2つのような望みです。
●「嬉しい気持ちを聞いてもらいたい」と望み、誰かに「話を聞いて欲しい」と依頼し、気持ちを話して一緒に喜んでもらえる
●「悲しい気持ちを聞いてもらいたい」と望み、誰かに「話を聞いて欲しい」と依頼し、親身になって話を聞いてもらえる
これらのようなことは、子供の頃の自分にとって最も親密な相手(主に、親や養育者)との関わりによって、「とても簡単に叶うこと」と「叶えることが困難なこと」のどちらかに印象づけられるところがあります。
「叶えるのが困難なこと」として心に刻み込まれてしまうとき、「それが自分の望みである」という気持ちも封印され、その望みを諦めたことにも気付けなくなってしまいます。
また、気付けなくなってしまった本当の気持ちとは裏腹に、それを望むことを馬鹿馬鹿しく感じるようにさえなります。
そして、次に挙げるような、生きる上で大切な「心をメンテナンスする体験」を積み重ねることを阻害し、「心が関わるとされる様々な問題」を生じさせることにつながるのです。
■些細なことでも、自分にとって嬉しいことを一緒に喜んでもらうと、「心が満たされた感覚」が増幅されて、次に自分がやりたいことをするための気力や勇気として蓄積される。
■些細なことでも、自分にとってつらいことを親身になって聞いてもらうと、「安心な気持ち」を取り戻す。更に、「また、つらくなることがあっても、同じように安心になれる」という安心感も蓄積される。
また、このような体験は、心に次のような影響も与えます。
○「自分の喜びや悲しみなど様々な感情は、他の人にも受け入れられる」という安心感が根付く
○泣いても否定されないことによって、自分のネガティブな感情も受容できるようになる
○自分の感情を肯定することによって、様々な感情を素直に排出できるようになる
○感情の排出によって、心をスッキリとして楽な状態に回復できるようになる
○泣いてスッキリした後に、泣いたことを責めなくなる
○感情が滞留しないため、行動や思考は、滞留した感情に影響されにくくなる
○怒りや悲しみなどの感情に、いつまでもとらわれなくなる
○人と一緒でも、隠さなければならない感情がないため、ありのままの飾らない自分として楽に過ごせるようになる
○心のダメージを、人との関わりの中で修復できるようになる
これらのことが関わり合って、安心な気持ちになったりリラックスしたりする方法を身につけ、それらを活用してダメージを受けた心や体を回復させられるようになります。
このように、子供の頃に、「望めば直ぐに叶えられるちょっとした望み」が、叶えられたかどうかが、心に大きな影響を及ぼすのです。
そこで、心理カウンセラーとの人間関係の中で、「過去に叶わないと思い込み、思い浮かべることすらなくなってしまった、ちょっとした望み」に気付き、再びそれを望んで叶える練習をするのも、心理カウンセリングの隠れた目的の1つです。
ですから、心理カウンセリングの中で些細なことでも「自分が望み、それが叶えられる」という経験を積み重ねることが大切になります。
その結果、普段の生活の中でも、自分に生じるささやかな望みに気付き、それを叶えようと思えるようになり、次第に心は満たされていきます。
そして、そのような「望んで叶える」というパターンの繰り返しが、やがて大きな目標の実現にもつながっていきます。
これが、「心理カウンセリングでは、相談者がきちんと望むこと、つまり、相談者が主体的に取り組むことが大切だ」といわれる理由です。