17 考えや価値観について
心理カウンセリングにおいて、決して否定されないのは、感覚や感情です。
考えや価値観なども否定はされませんが、考えや価値観は心の苦しさを回復させるにはあまり重要な要素ではありません。
その理由は、考えや価値観は、その時々の感情によって変化してしまうものだからです。
子供が、学校で嫌な行事があると「学校なんてなくなればいいのに」と考え、楽しい行事があると「早く学校に行きたい」と考えるのと似ています。
未解決の感情が残っていると、ものごとや考えなどへのこだわりを引き起こし、感情が解決するとそのこだわりからも解放されるのです。
それによって、考えや価値観は大きく変化してしまいます。
また、考えや価値観へのこだわりが生じているときに、それらを議論したところで、意見がぶつかり合ったり、意見が同じであることが確認できたりするだけです。
自分とは考えの違う相手に、自分の考えを受け入れさせたとしても、自分の何かが変わることは期待できません。
相談者のこだわりや心理カウンセラーのこだわりに、お互いが巻き込まれて議論が始まってしまうと、最も大切な「もう1つの目的」が消え失せてしまって、心理カウンセリングではなくなってしまいます。
考えや価値観を心理カウンセリングの題材として取り上げると、議論を引き起こしやすく、意見に相違があれば相談者と心理カウンセラーの双方が精神的に疲労するだけになりやすいので注意が必要です。
議論や心理カウンセラーの演説の多い心理カウンセリングは、うんざりした気持ちになって、続けるのが嫌になってしまいます。
そうならないように、心理カウンセラーは相談者や心理カウンセラー自身のこだわりに気付けるようにトレーニングを重ねています。
そして、考えや価値観はできるだけ聞き流し、「そう考える基になった感覚・感情」や「そのように考えることで生じる感覚・感情」に焦点を合わせ直そうとします。
しかし、相談者が、いつまでも考え方や価値観にこだわっていると、心理カウンセラーも議論へと巻き込まれてしまう恐れがあります。
また、いつまでも「もう1つの目的」のための体験ができなくなってしまいます。
ですから、相談者自身も、考えや価値観にこだわり過ぎずに、自分の感覚や感情に意識を向けようとする姿勢でいることが大切です。