02. 人の心に関する新しい解釈
次に『自己防衛機能』を他者に委ねるとはどういうことかを、順を追って説明します。
03-01. 群れない動物の行動
群れない動物は、「自分の安全は自分が守る」という基本スタンスを持っています。
群れない動物が別の個体と出くわすと、自分を自分自身で守ろうとする縄張り争いのような行動を起こしてしまい、群れを作ることにはなりません。
ですから、天敵と隣り合って生きている動物は、いつも自分ひとりで周囲を警戒しながら過ごさなければなりません。
ところが、群れを形成すると、そのような状況は一変します。
群れの大きな役割は、群れに属する個体の安全を確保することにあります。
群れ全体に周囲を監視する役割が分散されるので、一個体が警戒に費やす負荷がかなり軽減します。
群れを形成することによって、一個体の『天敵を監視する負担』が大きく軽減されます。
そして、警戒心の軽減は心身の緊張が緩和することにつながり、安心感を自分の内側から生じさせます。
草食系の動物は群れという形に守られることが中心ですが、肉食系・雑食系の動物は、群れという形に加えて、群れのボス、或いは、群れに属する個体の意思によっても守られます。
この群れに守られている状態は、次のように解釈することができます。
サルと同じように群れを作る習性を持っている人間が生きていくには、そのような安心感が必要なのです。
そして、その安心感を得るために、群れを作ろうとする習性を持つのが人間なのです。
03-02. 群れる動物の特徴的な行動
一般的に知られている、群れる動物の特徴的な行動は、犬の行動です。犬は自分より強い相手とは争おうとはせずに、腹を上に向けて寝転がります。
それを見た強い犬は、それ以上の攻撃を仕掛けなくなります。
サルも、相手がキバを隠して情けない表情をすると攻撃を仕掛けなくなる習性があると聞いたことがあります。
攻撃されないということは、「そこでの存在が許される」ことを意味します。
つまり、犬やサルは、「本能的に自分の弱いところをさらけ出すように行動し、それを見た相手は本能的に攻撃を止める」という本能的行動の呼応によって、群れに受け入れられるのです。
03-03. 犬社会における負け犬
負け犬という言葉があります(一匹狼も同様)。
これは人間に対して使われることもありますが、ここでは犬の社会におけるこの言葉を考えてみます。
負け犬とは、「群れに入れずに孤独に過ごす犬」のことを言います。
私の中の負け犬のイメージは次のようなものです。
- 自分より強い犬が現れても、決して腹を上に向けて寝転がらない
- 逆に、キバを剥いて、うなり声をあげる為、強い犬に襲われてしまう
- 自分より強い犬と闘っては負けることを繰り返す
- このような経験を何度繰り返しても、強い犬に対して、自分の腹を上にして寝転がることができない
- いつまでも群れに合流できない
- 群れの無い世界で孤独に生るしかなくなっている
これは、子犬の頃に、本能に従って腹を上に向けて寝転がっても、自分は守られずに襲われるような経験をすることによって、
- 『自己防衛機能』は他者には委ねられない
- 自分のことは自分で守るしかない
と学習してしまったことが原因なのだと考えています。
腹を上に向けずに、自分を自分自身で守ろうとする様子は、ファイティング・ポーズです。
その様子を見た相手は本能的に襲いかかってくる訳ですから、ますます、その行動を強化することになってしまいます。
また、逆に、自分より弱い犬が腹を上に向けて寝転がったとしても、ここぞチャンスとばかりに襲いかかるようになってしまうのです。